12ヶ国語を操る天才学者流 作文に必要な「5つの力」の養い方

世界的数学者でありながら、12ヶ国語を自由自在に操るピーター・フランクルさん。35歳から日本で暮らし始め、わずか2年後には日本語で雑誌の連載をしていたという。いったいピーターさんはどのようにして日本語を書く力を身に付けることができたのか、その秘訣やエピソードをお聞きした。

12ヶ国語の言語を操り、日本語の作文も数年でマスターしたピーターさん。幼少期から作文が得意だったのかと思いきや、本を読むのは好きだったものの、作文はどちらかといえば苦手なジャンルだったそうだ。

「子どもの頃『ブドウ狩り』のことを作文に書くという宿題が出ましたが、私はなんと、『宿題をやりたくないので学校に行きません』と父に言ったほど作文嫌いでした。ところが父が隣に座り、作文の書き方を教えてくれました。内容を箇条書きに用意して、書く順番を決め、それをノートに写していくのです。」

結果として父親が書いた作文のようにはなったが、ピーターさんはその経験から作文の面白みを学んだという。

「そのときから『作文は、それほどつまらないものではない』と感じはじめました。必ずしも、真実だけを書くわけではない、自分の想像力を発揮して面白くしてもいい、ということもわかりました」

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僕の人生を変えたコラムの連載

その後数学者としての道を進むピーターさんだが、日本へ来てから文章の仕事が舞い込んだ。

「初めてものを書く仕事をしたのは、日本に来て2年目でした。集英社のビジネスジャンプという青年向けの漫画雑誌で『数学の問題に関する連載を書いてほしい』という依頼を受けたのです。編集長と食事をしながら打ち合わせをしていると『数学だけじゃ寂しいので、最近あったこと、経験したことなどを、作文の気持ちで書いてくれないか』と言う。最初は800字でしたが、途中から増えて1200字。いくら編集者が文法や誤字脱字を直してくれるとはいえ、僕にとっては大変な苦労です。当時の日本語能力は、テレビのニュースは理解できても、ドラマは半分もわからず、お笑い番組になるとほとんど理解できない、という状況でした。内容を探すのもまた大変です。街で何かあれば『これは書けるかも…』と考えたり、昔のことを思い出して他の国で見た不思議な出来事を書いたり…」

続けていくにつれ、ピーターさんに変化が現れた、大変で仕方なかった原稿執筆が、だんだん面白くなってきたのだ。さらに、それをきっかけとして他の連載の依頼を受けるなど、新たな仕事にもつながっていった。

作文力は、テレビや講演の仕事にも役立った

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ある程度の長さがある文章を書き、一般の人に読まれるという新しい経験をしたピーターさん。その作文力は意外なところで活きることになる。

「昔は、テレビで討論番組がたくさんありました。そこでは、筋道を立てて、1-2分の短い時間内に自分の意見をまとめて伝えなくてはなりません。一方、講演をする際にも90分や1時間といった長い時間の中で、聴き手を飽きさせずにメッセージがきちんと伝わるように、内容をうまく小分けしてそれぞれの要点を順序立てて話す必要があります。テレビも講演会の仕事も、要点を捉えて文章を書く力が非常に役立ちました」

そして上記のような能力を鍛えるために、ピーターさんがおすすめする方法があるという。

「これは、外国語の勉強でおすすめしている方法なのですが、日本語でも十分役に立ちます。自分の今までの人生を、作文に書いてもらいたいのです。履歴書のように『○年○○学校卒業』という羅列ではなく、もっと面白く。200字、400字、2000字などのバリエーションで用意しておくのです」

確かに、簡潔に自己紹介をするのは大人ですら難しいけれど、一度作れば何回も使えるため、苦労するが元は十分に取れる。

「人生の見直しにもなります。『叔父にあこがれて建築が好きになった』など、自分のルーツや、好きなこと、嬉しいことなど、わかることがたくさんあるはずです。どんな人も、自分については詳しいですから、子どもでも書けると思います」

自己紹介文を、長短様々なバリエーションで用意しておくことは、子どもだけでなく、大人でも役に立つに違いない。

ピーター流、作文に必要な「5つの力」の養い方

作文には大きく分けて「語彙力」「表現力」「思考力」「観察力」「構成力」の5つの力が必要と言われている。それぞれの養い方について、ピーターさんのアドバイスはこうだ。

①語彙力

読書が一番です。小説や詩だけでなく、辞典をめくって面白そうなものを見つけて読んでもいい。ただし、読むだけではなく、気に入った語句はノートなどに書きとめてください。

②表現力

実は聞く力が大切。テレビのニュースやコメンテーター、タレントなどの言葉で、何が違うのか、何がよかったのか、注意深く聞くことから力が育ちます。自分が表現する際に、説明する順番なども学んでいけるでしょう。

③思考力

算数の問題を解いたり、興味があるものに対してできるだけたくさんの「なぜ」を考えたりすることで養われます。結果は、正解である必要はありません。論理的に考えているのなら、答えが間違っていても思考力は育っていくのです。

④観察力

いつも通っている道をゆっくり歩くこと。駅から自分の家までの道も、じっくり眺めるといろいろな発見があります。実況中継をすれば、同時に表現力も養われます。

⑤構成力

「論より証拠」「案ずるより産むが易し」ということわざが当てはまるでしょう。決まった長さの作文を何度も書いているうちに、少しずつ養われるものです。

5つの項目がそれぞれが相互に作用することで、作文力をアップさせることができる。1つの力だけでなく、総合的に培っていくことが求められるだろう。

最後は、努力し続けられる人が大成する

5つの項目に加え、さらに次のような力があれば理想的だ。

「因果関係などをしっかりとらえるための『分析力』、全体をひとつに収まりよくする『まとめの力』、見ていないものや経験していないものを捉える『想像力』も大切です」

作文力にはさまざまな要素が詰まっている。だからこそ、苦戦する人が多いのかもしれない。もうひとつ、ピーターさんが日本語で最も好きだという言葉。作文力だけでなく、すべてのことに共通する力を教えてくれた。

「何よりも大切なのは『努力』。僕は『駑馬十駕(どばじゅうが)』という言葉が好きです。意味は、『足の速い馬は一日で千里もの距離を走るが、足の遅い馬でも十日も走り続ければ追いつける』。大学にいた頃、周りには才能のある人がたくさんいましたが、何十年も経ったいま立派になっているのは、努力をし続けた人です。非凡な才能はなくても、努力しつづければ追い越せないことはありません。昨日の自分より、今日の自分がちょっとでもよくなるように。自分に合ったやり方で、楽しく、努力し続けられる方法を見つけてください」

ピーターさんの言う「努力」は、苦しいだけの根性論ではない。苦手なことの中にも楽しみを見出したり、自分らしい方法を発見したりすることで、誰しも息切れせずに努力を続けられるだろう。

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