すべての子どもたちに、言葉を。 聴覚障害児たちにとって「作文」とは何か?

うれしい、たのしい、つめたい、あつい、ぎらぎら、しとしと…。

子どもたちは幼い頃から様々な音を耳にすることで、誰に教えられるでもなく語彙を自然と習得する。そしてある日“言葉のポット”があふれ出すように、次々と言葉で自己表現を始める。

しかし聴覚に障害を持つ子どもたちは、どのようにして言葉を身につけるのだろうか。

聴覚障害児たちにとって、作文とは

「聴覚障害児=手話」というイメージを持っている方も多いだろう。しかし、世の中には手話が通じない世界も存在する。彼らが生きていくためには、手話で表現することに加え、「書くこと」が大切なツールの一つとなるのだ。

気持ちを伝えるために手紙を書く。仕事をするためにメールや文書を作成する。連絡事項は電話ではなくメールで…。

「書くこと」で自分を表現できようになるために、聴覚障害児たちは家族や教員との関わりの中で表現力を培っていく。

ろう学校で行われる作文指導

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聴覚障害児たちが「書くこと」で自分を表現できるようになるために、ろう学校ではどのような指導を行っているのか。

全国ろう学校作文コンクールで受賞者を輩出したこともある「都立立川ろう学校」にて、作文指導にあたる西谷先生と山崎先生にお話をお聞きした。

西谷先生「事前に話し合いや確認をせずに作文を書かせると、“○月○日に運動会がありました。○○をしました。楽しかったです。”といった、時系列に添った作文になる傾向があります。」

008.jpg教室には常に工夫が凝らされている

そんなときには、そのときの状況や気持ちを丁寧に確認し、「運動会で三段タワーで成功したときは、どんな気持ちだった?」「どうしてそんな気持ちになったのかな?」「周りのお友だちやお客さんの様子は?」と、情景を一緒にイメージしながらアドバイスをするという。

テーマを与えて“さぁ書いてごらん”というやり方ではなく、ひとつ一つの文章を一緒に作りあげる気持ちで、マンツーマンで時間をかけて指導をするのだ。

009.jpg一人ひとりにじっくり指導する

山崎先生は付箋を活用して、色を使った指導も行うという。

山崎先生「子どもたちの書いた作文に、『文や言葉の使い方に間違いがあるときはピンク』『よく書けているところは黄色』『もっと詳しく説明したほうが良いところは青』など、付箋で色を付けていきます。それを見ながら、どこに間違いがあったのか、どこをより詳しく書けば自分の思いを表現することができるのかを考えさせることができます。」

この根気強い付箋指導を、毎日の日記で行っていたこともあるという。書く子どもたちはもちろん、指導する先生にも並々ならぬ努力が必要だ。

010.jpg付箋や赤字がぎっしり刻まれたノートからは、生徒と先生の努力の痕跡が見える

山崎先生「聞いてくれる人、自分を受け止めてくれる人がいれば子どもたちはきっと書けるようになります。『がんばったね』『すごいね』とたくさん褒めて、丁寧にフィードバックしてあげることが大切です。」

伝えたいことがあっても、どんな言葉で伝えるべきかに悩み、途中で机をたたいて悔しがる子もいるという。

「それでも根気強く、辛抱強く取り組めば、子どもたちは必ず書けるようになります」と、山崎先生は話してくれた。

子どもにとって、本当に必要な教育とは

「うちの子どもを、普通小学校に入れたいと思っているのですが…。」

聴覚障害者教育福祉協会には、聴覚障害児の保護者たちからこのような相談が寄せられることがある。

小学校入学前の就学前健康診断で高度難聴と診断され、わが子をぜひ普通小学校に入学させたいが、やはりろう学校で学ばせる方が適切かどうかを迷う保護者もいるのだという。

「普通小学校に入学して健聴者と同じ環境で勉強をさせ、社会に出てからも健聴者と同じように生活できるようになってほしい、と考える方もいらっしゃる方もいるようです。」と、聴覚障害者教育福祉協会専務理事・櫻井氏は話す。

しかし、果たしてそれは子どもたちにとってベストな方法なのだろうか。

ろう学校での素晴らしい指導によって、彼らの力を最大限に伸ばすという選択肢もあるのだ。

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ろう学校の階段。子どもたちの言葉の学習を支援するために、保護者がボランティアで作成した。

子どもの未来のために、本当に必要な教育とは何か。

もしあなたが親になったら、じっくりそれを考えてあげて欲しい。

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