高橋尚子に聞く。スポーツと勉強の意外な相関関係とは?

「うちの息子、運動はできるけど勉強はイマイチ…。」「わが子は運動がダメだから勉強を頑張らせよう。」そんなことを考える保護者も多いのでは?

しかし、運動を通じて習得したことが勉強に生かせる、または、その逆のパターンもありうるのではないだろうか?運動と勉強は“別物”ではなく、そこに相関関係が存在する可能性もあるのでは?

そのヒントを探るべく、マラソン世界記録を樹立した“運動のプロ”である高橋尚子さんにインタビューを敢行した。

アスリートとして世界記録を樹立なさった高橋さんですが、勉強は得意でしたか?

実は私の両親が国語の教師で、私も経済の教員免許を持っているんです。国語でも体育でもなく、経済というところが面白いですよね。(笑)

だからといって勉強がすごく得意だったというわけではありませんが、作文は好きでしたね。夏休みに岐阜県で発行している「夏の友」という冊子に、私の作文が掲載されたことがあります。作文を書くことが好きだったのは、両親が国語の先生だったので、小さいころから「話し方」に気を遣っていたせいかな。例えば「今日の運動会楽しかったよ!」と私が伝えると、「楽しい・うれしいっていう言葉を使うだけでなく、何が楽しかったのか、きちんと理由を教えてね。」と両親から言われることもありました。

その能力がキャスターや解説者など、現在の「話す」仕事にもつながっているのでは?

「話す仕事」は、なかなか上手くできない事も多く、テレビの収録後に落ち込むこともあります。でも、マラソンに関しても、私は“最初からすごくできる”タイプではなかったので。「最初からアナウンサーのように上手くしゃべれるわけはない。一生懸命やれば、来年再来年と、少しずつ進歩するはず。」と言い聞かせて続けてきました。

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“最初からすごくできるタイプ”ではなかった高橋さんが、どうやって金メダル獲得に至ったのでしょうか?

私は一つひとつの階段を着実に上ることで成長してきた人間だと思います。大きな目標を飛びこえるのは難しいので、小さな目標をひとつずつ越えていくことが大切なのです。「跳び箱を5段跳びたい」と思ったら、5段跳ぶことばかり考えるのではなく、柔軟体操をしたり、まずは4段に挑戦してみたり、少しずつ大きな目標に近づいていけば良いんです。

そういった考え方は、スポーツだけでなく、勉強や仕事にも生かせそうですね。

そうですね。通じるところはあるかもしれません。現役のときって、私たちは本当に「食べて・寝て・走る」ことしかしないんです。朝起きて走って、昼ご飯を食べて走って、お風呂に入って寝るという、すごくシンプルな生活。そんな単調な生活なのに、自分のやっていたことを全部覚えているんです。あのときの空気、熱さ、走りながら感じたこと、その日の天気や感情。一生懸命やっているときって、そのときの状況も含めて、後から克明に思い出すことができるんです。

それは勉強も同じで、一生懸命集中して勉強していれば、当時の情景や出来事も含めて、たくさんの知識をしっかりと頭に入れることができるのではないでしょうか。

あとは、「できないこと」に落ち込まないで、運動でも勉強でもチャレンジすることが大切だと思います。

欠点を直すことよりも、長所を伸ばすことが大切

しかし、「できない」壁にぶつかって、モチベーションを維持することは難しいのでは?

もし自分に解けない問題があったら、「ラッキー!今やっておけば、次はすごく楽にこなせる。」と前向きにとらえればよいんです。

できないことは恥ずかしいことでもなんでもないですから。新しいことにどんどんチャレンジして色んな扉を開けてみれば、新しい景色が見えてきてワクワクする。それがモチベーションにつながるはずです。

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「指導法」に関しても、運動と勉強に共通することはあると思いますか?

運動でも勉強でも、とにかく良いところを見つけてほめてあげるべきだと思います。例えばトップでゴールした子には「速いね!」と声をかけられますが、最下位だったら親としてどんな言葉をかけるべきか?「最後まで一生懸命走ったね。」「腕のふり方が良かったよ。」など、良いところを見つけてあげましょう。

欠点を直そうと思うと、欠点にばかり目が行ってしまう。でも欠点を直すって、大人でもすごく難しいこと。一方、長所を伸ばすことはすごく楽しくて、すんなりできることだと思うんです。長所が伸びれば自分に自信が持てて、色々なことにチャレンジしやすくなる。

私も小出監督に「君は下りのスペシャリストだ!」って褒められていたから、「下りでは意地でも負けない!」と頑張ることができました。それによって自分に自信を持てるようになり、苦手な上りも克服できました。

それから、一面だけではなく、多面的な教え方をすることも大切だと思います。

一面だけではなく、多面的な教え方とは?

問題を解くときに一つの方法に固執せず、子どもにあった方法を考えてあげることです。例えば算数の問題が解けなかったら、「なんで分からないの?」と問いつめるのではなく、身近にある物を題材にして「これならわかるでしょ?」という提案をしてあげること。本質的なことを理解すれば、きっとわかるようになると思うので。

運動でも勉強でも、興味を持つ前は親が一緒に取り組むべき


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保護者の方のサポートも大切だということですね。

子どもにとって、お父さんとお母さんと触れ合う時間ってすごく楽しいし、そこで吸収することはすごく大きいと思うんです。運動でも勉強でも、興味を持つ前は親が一緒に取り組んであげることによって、やる気が格段にアップします~。

高橋さんのご両親も、走ることを後押ししてくれたのですか?

私の場合は両親に「マラソンはやめなさい。」とずっと言われてきたのですが(笑)。当時はマラソンで食べていけるような時代じゃなかったので、「マラソンをやるくらいなら、先生になりなさい。」と言われていました。

でも幼いころに、買い物の道中に父と「この電信柱から次の電信柱まで競走しようよ!」なんてことをしていました。そこで「勝った!」と、喜んでいたことは今でも鮮明に覚えています。今思えば、父はわざと負けてくれていたのでしょうけど。 そんなうれしかった気持ちが、マラソンを続ける糧となったのかもしれませんね。

ありがとうございます。最後に読者にメッセージをお願いします。

最初は親と一緒に歩んでいても、ある時期からは子どもが自分の意志で進路を決めることも大切かもしれません。もちろん、そこまでのアドバイスや経験談などのサポートは必要だと思いますが。

私は高校も大学も実業団も、全部自分の意思を押し通してきた感じです。自分で道を決めれば、その道が駄目でも誰のせいにもできません。絶対に「この道で良かったね。」と自分自身も周りも納得させたいという強い意志を持つことができると思います。

そして、自分で決めた道を歩んでいるときは、不思議と後ろを振り向かないものです。その強い決意や意思が、お子さんを成長させるのではないでしょうか。

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<<高橋尚子>>98年名古屋国際女子マラソンで初優勝、以来マラソン6連勝。2000年シドニー五輪マラソン金メダルを獲得し、同年国民栄誉賞受賞。01年ベルリンで世界記録(当時)を樹立する。08年10月現役引退を発表。公益財団法人日本陸上競技連盟 理事、公益財団法人日本オリンピック委員会理事、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アスリート委員会委員長。その他「高橋尚子のスマイル アフリカ プロジェクト」や環境活動、スポーツキャスター、JICAオフィシャルサポーターとしても活躍中。

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